再度の執行猶予とは?【弁護士が解説】

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

 

弁護士の回答

再度の執行猶予とは、現在執行猶予中の者が再度、刑の執行を猶予されることをいいます。

この再度の執行猶予は要件が厳格であり、認められるのは極めて限定的です。

 

 

再度の執行猶予の要件

再度の執行猶予は、以下の要件を満たす場合に認められます。

要件 解説
①裁判時に執行猶予中の者であること 今回の犯罪の裁判のときに執行猶予中である
②量刑が1年以下の懲役・禁錮刑であること 今回の犯罪の刑が1年以下の懲役・禁錮刑である

例:執行猶予中であっても、今回の刑が懲役1年を超えると対象とならない

③情状に特に酌量すべきものがあること 情状とは、容疑者の反省の程度、境遇、犯罪後の事情(被害弁償の有無など)など
④保護観察に付されていなかったこと 保護観察とは、犯罪をした人が立ち直れるよう指導監督を受けること

 

根拠条文

(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 略
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

引用元:刑法|電子政府の総合窓口

※「前項と同様とする」というのは、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができるということです。


 

再度の執行猶予のポイント

この中で重要なのは、③の「情状に特に酌量すべきものがあること」です。

初犯の場合、「情状により」執行猶予が付されます。

しかし、再度の執行猶予の場合は、情状に「特に」酌量すべきものが必要であり、要件が厳格なものとなっています。

これは執行猶予期間中に再度の罪を犯した者については、基本的に執行猶予付き判決では刑法の目的を達成できないという考えに基づきます。

「今自分は執行猶予期間である」という認識があるにもかかわらず罪を犯してしまった者は、規範意識が低く、刑務所内での更生しか方法がないと判断されてしまいやすいのです。

 

 

再度の執行猶予の可能性

再度の執行猶予が付されるのは、かなり限定的なケースです。

例えば、暴行罪で執行猶予付き判決を得ていた者が、執行猶予期間満了直前に、自動車の運転上必要な注意を怠り、人に軽傷を負わせたような場合(過失運転致傷罪)などは、再度の執行猶予の可能性が相当程度認められるでしょう。

同種の犯罪ではなく、かつ過失犯であるとなると、再度の執行猶予に十分に犯罪抑止効果を期待できるからです。

同種の犯罪であっても、全く再度の執行猶予はありえないとまではいえないでしょう。

前回の行為態様と今回の行為態様が大きく異なり、今回については汲むべき事情がある場合、示談が成立している場合、被害者側の過失がある場合等には、再度の執行猶予の可能性があります。


 

再度の執行猶予の確率

再度の執行猶予が難しいとして、その確率はどの程度でしょうか。

正確な確率を算定するのは難しいのですが、ある程度の数値は算出可能です。

少し以前となってしまいますが、確認できる統計資料によれば、2004年における執行猶予確定人員が5万6859人であり、このうち5万6460人が初度の執行猶予、399人が再度の執行猶予でした。

また、同年の刑事裁判の全事件の確定人員は、83万7528人です。

このことから、刑事裁判となった者のうち、再度の執行猶予がついた人は、全体の0.05パーセントにも満たないことがわかります。

引用元:犯罪白書

 

 

再度の執行猶予が認められた事例(判例)

判例 令和2年7月1日 名古屋高裁 令和2年(う)82号

【事案の概要】

Xは、100円ショップで食料品24点を万引きの方法により窃取した。
Xには同種の万引き事案による前歴2件に加え、平成20年7月に罰金20万円、平成26年2月に懲役1年、3年間執行猶予に、平成27年9月に懲役1年、5年間執行猶予付保護観察(平成30年10月23日保護観察仮解除、平成31年3月19日仮解除取消)の前科があり、本事案は直近前科の執行猶予期間中の犯行であった。

【裁判所の判断】

1審で再度の執行猶予が言い渡されたことに対して、検察官が量刑不当として控訴した。
控訴審では、検察官の主張を認めず、再度の執行猶予を言い渡した1審の判断を維持した。
引用元:令和2年7月1日|名古屋高裁


【解説】

名古屋高裁は、検察官の主張に対して、以下の点を指摘し、再度の執行猶予を認めました。

■犯行態様の悪質さ等の評価
本件が他の万引き事案に比べて特に狡猾、巧妙で手慣れた犯行態様であると評価することはできない。

■被害の評価
24点という点数や合計2592円という被害額が少ない方ではないとしても、他の万引きの事案に照らして極端に多いというほどでもない。
Xは被害弁償をしている。

■犯罪傾向の深化
仮に、Xがレジ袋を事前に準備したものであったとしても、計画性を含めて従前の犯行に比べて態様の悪質性が増したと評価するほどのものではない。
前刑の言渡しから本件犯行までの3年数か月間には万引き行為に及んだ形跡がないことに照らすと、Xの犯罪傾向が深化したと評価することはできない。

■犯行動機等
本件犯行当時、Xに摂食障害の症状が再燃していた事実がうかがわれるほか、本件における被害品の多くがすぐに食べることができるパン類であって(パン類の点数は18点。それ以外はおにぎり2個、串団子2パック、カップラーメン2個)、その点数も1人で食べる量としては相当に多い上、かなり大きめのレジ袋一杯に食料品を詰め込むというその犯行態様に照らすと、本件犯行は、大量に食べて吐くという摂食障害及びそれと密接に関連する窃盗症の衝動によって引き起こされたとみることができる。

 

 

再度の執行猶予を獲得するためのポイント

再度の執行猶予が認められるのは、決して簡単とはいえません。

しかし、可能性はゼロではありません。

検察官の主張に対して、被告人の有利な情状を説得的に主張することが重要です。

また、事後的な活動として、被害者がいる事案では、示談交渉の成否も大きく影響すると考えられます。

上記の裁判例も、被害弁償をしています。

示談が成立するということは、被害者の処罰感情が喪失することを意味します。

そのため、有利な情状となります。

 

 

 

まとめ

以上、再度の執行猶予について解説しましたがいかがだったでしょうか。

執行猶予がつくか否かは、刑事事件で悩む方々にとってとても重大です。

再度の執行猶予は、決して簡単ではありませんが、可能性はゼロではありません。

容疑者の方の有利な情状を主張し、示談交渉が成功すれば、再度の執行猶予の可能性も出てくると考えられます。

 

 

 


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