自動運転システムの事故で、運転者は罪に問われるのか?

自動運転システムの性能

近時、自動運転を可能とする自動車の開発が世界中で進められています。

自動運転には、運転操作を自動で行う度合いに応じて、レベル0からレベル5までの6段階が設定されています。

とはいえ、レベル4の高度自動運転や、レベル5の完全自動運転の実現はもう少し先の話になりそうであり、現在販売がされているのは、運転操作は基本的に運転者が行い、自動ブレーキや車線維持、自動追い越しなど、一部の操作を補助的に行う、レベル1ないし2の車になります。

現在は、ごく限られた条件下においてのみ自動で運転を行う、条件付自動運転(これは6段階のうち真ん中の、レベル3に該当します)の実用化に向け、各社がしのぎを削っている状況です。

そして、2020年11月、大手自動車メーカーから、レベル3の自動運転機能を搭載した車を、今年度中に世界で初めて一般発売することが発表され、自動運転車が現実に車道を走行する機会が目前に迫ってきました。

レベル3の条件付自動運転においては、悪天候や前方に人が急に飛び出したような場合など、自動運転システムの判断に限界が生じてしまうと、運転者が通常どおり運転操作を行い、適切に対応しなければならなくなります(この状況を「オーバーライド」といいます)。

 

 

自動運転システムを利用中の事故について

以下では、架空の事案をもとに、運転者の刑事責任について検討していきます。

Aさんは、レベル3の条件付自動運転が可能であることを謳った、最新式の自動運転車を手に入れ、毎日のように自動運転システムを使用して走行していました。

ある日、Aさんの車が、自宅近くにある公園の側を走行していると、公園から走って出てきた子どもがAさんの車の前方に飛び出してきてしまいました。

このとき、Aさんは手元でスマートフォンを操作しており、前方を注視していませんでした。

子どもの急な飛び出しにより、Aさんの車の自動運転システムは、危機回避の判断が間に合わないと判断し、オーバーライド状態になりました。

しかし、上記のとおり前方不注意だったAさんは、子どもの飛び出しに気づくのが遅れてしまい、急ブレーキをかけたものの間に合わず、飛び出してきた子どもを轢いてしまい、右足骨折の重傷を負わせてしまいました。

以上のような事案において、Aさんにはいかなる罪が成立するでしょうか。

 

通常の場合と同様に過失運転致傷罪が成立する?

自動運転システムを搭載していない自動車を運転していた場合に、上記のような前方不注意による事故を起こしてしまった場合であれば、Aさんには過失運転致傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条)が成立することは明らかです。

過失運転致傷罪については、こちらをご覧ください。

ひき逃げしかし、自動運転システムを用いて車を運転していた場合に、通常の場合と同様に過失運転致傷罪が成立するといえるのでしょうか。

自動運転システムに運転を任せていたAさんには、通常の車を運転していた場合と同様の過失があると判断されるのでしょうか。

Aさんの立場としては、「自動運転に任せていれば事故が起こるとは考えておらず、仮に危険が生じたとしても、自動で停止するはずであったのだから、少し前方から目を離していたとしても、自らに責任はないのではないか。」と考えても不思議ではないかもしれません。

しかし、自動車を運転する際に運転者に課せられる義務のうち、前方注視義務は特に基本的かつ重要なものであることは論を待たないでしょう。

事故を起こさないよう、常に変わり続ける道路状況に対応していくためには、前方を注視して道路状況に関する情報を把握し続けなければならないことは明らかです。

ここで、自動運転システムに運転を任せている場合と、通常どおり自力で運転している場合とで、要求される前方注視義務の程度が変わり得るとも考えられます。

しかし、レベル3の条件付自動運転においては、緊急時にオーバーライド状態になることは当然に想定されています。

また、人の飛び出しなどの緊急事態がいつ生じるかは、当然のことながら誰にも分かりません。

そのため、たとえ自動運転システムを使用していたとしても、運転者は突発的なオーバーライド状態に適切に対応できるよう、常に前方を見ていなければならないといえるでしょう。

したがって、自動運転システムに任せている間であっても、運転者は通常時と同程度の前方注視義務を負うことになり、Aさんはかかる義務に違反して事故を起こしてしまったことになりますので、やはり過失運転致傷罪が成立することになると考えられます。

 

 

まとめ弁護士現時点ではレベル3の自動運転を利用できるのは、高速道路が渋滞しているか、又は渋滞に近い状態であって、速度50キロ以下で走行する場合に限られます。

そのため、上記のような事故が生じる可能性は現時点ではさほど高くはないでしょう。

レベル4、もしくはレベル5の自動運転が実用化された場合は、基本的に人間が運転操作をすることが想定されないため、運転者の責任は問題にならなくなる可能性もありますが、少なくとも現時点ではこのような議論は当てはまらないと言えそうです。

しかし、今後こうした条件が変わる可能性もありますし、自動運転システムを過信してしまうと思わぬ事故につながるおそれは十分にあります。

今後、自動運転システムを搭載した車が普及してくることが予想されますが、自動運転システムに頼りすぎることなく、変わらず注意をして運転しなければなりません。

 

 

 

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