職務質問は拒否できる?警察から職質された場合の対処法

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  保有資格 / 弁護士

職務質問はあくまで任意に行われるものであり、応じたくない場合には協力を拒否することが出来ます。

しかし、職務質問を拒否することであらぬ疑いを抱かれてしまい、トラブルに発展するおそれがあります。

最悪の場合、公務執行妨害罪で現行犯逮捕されることもあり得ますので注意が必要です。

ここでは、職務質問を拒否できる法律上の根拠、具体的な拒否の方法、その他職務質問についてよくあるご質問をご紹介しています。

ぜひ参考になさってください。

職務質問を拒否できる?

職務質問とは?

職務質問とは、警察官が通行人等を停止させて質問することをいいます(警察官職務執行法2条)。

参考:e-GOV法令検索|警察官職務執行法

 

職務質問を拒否できる?

 

職務質問は、法律上拒否することができます

しかし、職務質問を拒むと、結果として警察官が不信感を抱くこととなります。

最悪の場合、公務執行妨害罪で現行犯逮捕されることもあり得ますので注意が必要です。

 

職務質問を拒否したらどうなる?

職務質問を拒否したときに想定されるのは、まず、警察官からの説得です。

具体的には警察官からの質問に答えずにその場を立ち去ろうとすると、呼び止められて、なぜ質問に答えないのか、問い質される状況が想定されます。

そのような警察官の対応は、職務質問に応じることを強制されているように感じるでしょう。

そこで、ついカッとなって、警察官に暴言を吐いたり、暴行を加えたりすると、公務執行妨害罪で逮捕される可能性があります

また、暴言や暴行がなかったとしても、その他の状況しだいでは、逮捕の要件を満たしていると判断されて、逮捕される可能性もあります。

 

 

職務質問に応じなくてもいい理由【法的根拠】

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警察官は、まるで職務質問は強制的な捜査であり、対象者に拒否する権利などないと言わんばかりの態度で職務質問を行おうとしてきます。

しかしながら、職務質問は、法律上、次に該当する者に対してのみ許されています(警察官職務執行法2条1項)。

  • 異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者

又は

  • 犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者

また、上記に該当し、職務質問を行うことが可能な場合でも、職務質問はあくまで任意に行われるものであり、応じたくない場合には協力を拒否することが出来ます

職務質問の法的根拠となっている法律においても、職務質問に必ず応じなければならないとは書かれていません。

【根拠法令】

(質問)

第二条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。

2 その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。

3 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。

4 警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。

引用元:警察官職務執行法|e-Gov法令検索

 

歩道を歩いているだけで職務質問の対象となる?

では、具体的にどのような場合であれば、職務質問の対象となるのでしょうか。

上記のとおり、職務質問は「異常な挙動」などが要件とされており、ただ道路を歩いていただけであれば、職務質問の対象者には当たりません。

完全に任意であれば、違法とはいえないでしょうが、歩き出そうとしてそれを止める行為、所持品検査を拒絶しているのに執拗に求める行為は違法捜査となるでしょう。

 

犯罪を犯していると疑うに足りる理由がある場合

仮に何らかの犯罪を犯していると疑うに足りる相当な理由のある者と警察官から判断されたとしても、職務質問は、任意捜査に過ぎません。

したがって、法律の条文を素直に読めば、協力を拒否することができそうです。

しかし、刑事裁判では、「強制に至らない有形力の行使」であれば、適法と判断される傾向です。

犯罪の疑いの程度にもよりますが、歩き出すのを腕で止める行為や、ズボンのポケットを外から触れる行為などは適法とされてしまうことが多いと考えられます。

判例 東京高等裁判所昭和49年9月30日付判決

「警察官職務執行法二条一項の警察官の質問はもつぱら犯罪予防または鎮圧のために認められる任意手段であり、同条項にいう「停止させる」行為も質問のため本人を静止状態におく手段であつて、口頭で呼びかけ若しくは説得的に立ち止まることを求め或いは口頭の要求に添えて本人に注意を促す程度の有形的動作に止まるべきで、威嚇的に呼び止め或いは本人に静止を余儀なくさせるような有形的動作等の強制にわたる行為は許されない」

 

 

職務質問の内容

職務質問は、一般に「停止させる」「質問する」「同行を求める」の3つに分けられます(警察官職務執行法2条1項及び2項)。

参考:警察官職務執行法|e-Gov法令検索

特に問題となるのは、「停止させる」、「同行を求める」行為の限界です。

以下、具体例で解説します。

 

停止させる

質問のために「停止させる」行為について、判例は比較的緩やかに実力の行使を許容しています。

  • 職務質問中の者を引き止めるためにその腕に手をかける行為
  • 職務質問中に逃げ出した者を追跡してその腕に手をかける行為
  • 前面に立ちふさがる行為
  • 対象者が車に乗り込んで運転発進しようとした際、窓から手を入れてエンジンキーを回転してスイッチを切った行為

参考:最高裁昭53.9.22

同行を求める

他方で、停止の段階から一歩進んで「同行」の問題となると、判例もかなり慎重となっています。

例えば、路上において長時間質問の後に、鉄柵にしがみつく対象者の手指を引き離しパトカーに引き入れたことを強制力を伴った違法な任意同行としています(大阪高判平4.2.5)。

 

所持品検査について

職務質問では、実務上、対象者の携行品を取り出して調べたり、中身を検査したり、身につけている衣服等の検査をすることが行われています。

所持品検査については、法律の明文の根拠はないものの、判例(下記)は職務質問に付随する行為として、一定の条件で認めています。

参考判例 最高裁昭53.6.20
職務質問に附随して行う所持品検査は、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度で許容される場合がある。

引用:最高裁判例|最高裁WEBサイト

以下、所持品検査の限界が問題となった事例をご紹介します。

判例 所持品検査を適法とした判例
猟銃等を持った銀行強盗事件が発生し、緊急配備についていた警察官が、職務質問に対し黙秘したうえ所持品の開披要求を拒否した対象者に対し、ボービングバッグのチャックを開披し、内部を一べつした行為(最高裁昭53.6.20)

引用:最高裁判例|最高裁WEBサイト

判例 所持品検査を違法とした判例
覚せい剤使用の容疑が濃厚な対象者に対し、職務質問中、承諾なく、その上衣左側内ポケットに手を入れて所持品を取り出して検査板行為(最高裁昭53.9.7)

引用元:最高裁判例|最高裁WEBサイト

 

 

職務質問された場合の対処法とは?

職務質問をされた場合に考えられる対応は大きく分けて2つあります。

任意であるという理由で拒否し立ち去ろうとする

任意であるという理由で拒否し立ち去ろうとすることは、既に述べたように法的にも許されている対応法になります。

しかしながら、警察官が簡単に職務質問を諦めていては本当に危険な事案を見逃す可能性もありますから、当然職務質問に応じるよう執拗に説得を行ってきます。

その押し問答の過程で警察官に何らかの暴行を加えたと判断されると、最悪の場合、公務執行妨害罪で現行犯逮捕されることもあり得ます。

公権力を振りかざしてこのような対応を行うことは本来許されるべきではありませんが、職務質問を断ることに要する時間や労力、リスクは大きいと考えた方が無難です。

なお、職務質問に応じない場合は、なぜ職務質問に応じたくないのかを具体的に説明したほうがよいでしょう。

例えば、時間的な余裕がないことや、潔白であることについて、ある程度説明をしてみて、警察官の様子を見てみるとよいでしょう。

 

全面的に協力してなるべく早く終わらせてもらう

無実の場合

職務質問を行える要件を満たしていない事案の場合、警察官の職務質問は不適切な行為と言えるでしょう。

このような場合、全面的に協力した方が速やかに解放されることは間違いありません。

犯罪に関与している場合

犯罪を犯してしまっている場合、職務質問を拒否しても、遅かれ早かれ犯行が発覚する可能性が高いです。

したがって、職務質問を拒否するのではなく、誠実に対応すべきです。

もっとも、警察官は行き過ぎた違法・不当な取り調べを行うことがあります。

そのため、できるだけ早い段階で刑事事件に強い弁護士に相談することをお勧めいたします。

 

 

職務質問についてのよくあるQ&A

急いでいるときに職務質問されたらどのように拒否したらいい?

仕事等でどうしても急がなければならないときに職務質問をされるということも起こり得ます。

このようなときに単に「任意であるから断る」と伝えても、上記のとおり、それだけで警察官が諦めることはほぼありません。

どうしても拒否したいという場合は、自分にどのような不審事由があると判断したのか尋ねてみてはいかがでしょうか。

不審事由がなければそもそも職務質問を行える要件を満たしていませんから、納得するに足りる不審事由を挙げられなければその場で解放される可能性もあります。

時間が無い場合は難しいかもしれませんが、知り合いに弁護士がいれば、その場で助けを求めることも考えてよいかもしれません。

一方で、警察官の挙げた不審事由に一定の合理性があるのであれば、拒否するよりも対応した方が最終的には時間が短く済むことになるでしょう。

それでも職務質問に応じている暇が本当にない!という場合は、望みは薄いですが、自分の名刺を渡して、後から連絡するようにお願いしてみるしかないでしょう。

 

現場から逃げても問題ないですか?

仮に犯罪を犯していなかったとしても、いったん職務質問されてしまった場合には、逃げ出すことはお勧めできません。

違法であってもいざ知らず警察官は追いかけてくるでしょうし、逃げ出したことをもって犯罪を犯したと疑うに足りる理由があるなどと誤った発想をする警察官もいるでしょう。

違法な警察官の行為を免れるために正当な行為をしようとしているのに、その行為を持って犯罪を疑うわけですから、かなり悪質です。

 

警察を押し倒して逃げると公務執行妨害となりますか?

仮に警察官の行為が違法であれば、押し倒す行為は正当防衛に当たる可能性があります。

そうすると、警察官の違法な公務は刑法上の保護に値しませんから、公務執行妨害罪は成立しないとも考えられます。

しかし、裁判になると、警察官の主張が通ってしまうおそれがあります。

「被告人は不審な動きをしていました。わたし(警察官)を見て目をそらして逃げようとしたので、声をかけたのです。」などと自らの行為の正当化のために供述するかもしれません。

その供述に仮に信用性が認められると、職務質問、所持品検査が合法ということになり、公務執行妨害罪で有罪ということになりかねません。

したがって、押し倒すような行為はお勧めできません。

 

まとめ

以上、警察官の職務質問の拒否について、くわしく解説いたしましたがいかがだったでしょうか。

職務質問は本来的には拒否できます。

しかし、職務質問を拒否することであらぬ疑いを抱かれてしまい、トラブルに発展するおそれがあります。

したがって、基本的には警察官に協力して少しでも早く終わらせることをお勧めいたします。

もし、職務質問でお困りの場合は、すぐに弁護士に依頼しましょう。

刑事事件にくわしい弁護士であれば、職務質問、所持品検査が違法であることを専門家として説得的に主張します。

仮に警察官の違法な行為によってあなたが傷つけられたのであれば、国家賠償請求も考えなければなりません。

まずは刑事事件に注力する弁護士が在籍する当事務所に、お気軽にご連絡ください。

 

 



なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか

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