刑事事件の責任能力がないと判断された事例

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

罪名 銃刀法違反(銃刀法31条の18)・殺人予備(刑法201条・同法199条)
解決までの期間 1ヶ月
弁護活動の結果 責任能力無しと判断され、不起訴

事例人物

Yさん(30代)

※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

逆恨みをして嫌がらせを行なっていたYさん

Yさんは、以前の勤務先で、自分の良からぬ噂を流されたと勘違いし、Yさんが噂の出元であると考えた人物に対して、毎朝付きまとい、エアガンをちらつかせるという嫌がらせ行為を行なっていました。

次第にその行為はエスカレートし、Yさんは、様々な凶器を携帯して元職場に押し入ってしまいました。

すぐさま警察が駆けつけ、Yさんは銃刀法違反の容疑で逮捕されました。

 

 

接見を通じてYさんの異変に気付く

Yさんは、最初の接見の際に、事件に至る経緯や自分の前科前歴等について詳しく話をしてくれました。

その際何度も、何のために凶器を携帯していたのか、殺意はなかったのか、という点について聞きましたが、「脅して話をするためだった。」と断言していました。

それにもかかわらず、翌日に接見に行ったときには、「実は殺意があった。」と突然言い出したのです。

しかも、既に供述調書にもその旨を書いたと言っていたため、なぜ前回の接見のときに伝えてくれなかったのかとYさんを問いただしました。

すると、Yさんは、自分がとある組織に所属していて、その命令でこれまでの嫌がらせ行為を行なっていたということや、前回話してくれた前歴についても全てその組織の指示でやったことであり、そのことを警察に話したのだと言い始めました。

 

 

検察官との連絡を密にし、責任能力無しとの判断に

Yさんの話に違和感を持った私は、担当の検察官と連絡を取り、そもそもYさんが言うような前歴はあるのかということも聞いたところ、Yさんには全く前歴がないということであり、Yさんの話が全て妄想の中の出来事であるということが分かりました。

私は、Yさんには責任能力がなく、精神的な疾患の治療をするべきだという主張をし、Yさんの精神的異常性を明確にするため、Yさんが所属しているという組織とはどのようなものなのかを紙に書いてもらって証拠として提出しました。

その後何度か検察官とやり取りを行なったところ、検察官もYさんの責任能力に疑問を持ち、簡易鑑定が実施されることになりました。

簡易鑑定の結果、Yさんにはやはり精神疾患が認められました。

検察官は、その精神疾患が事件に大きく影響を与えていたと判断し、Yさんを措置入院としました。

こうして、銃刀法違反及び殺人予備については、不起訴処分となりました。

罪責を逃れるためにいたずらに責任能力を争っても無意味ですが、今回のケースは明らかに精神疾患の影響が強いと感じたため、責任能力を争う方向で不起訴処分を得ることができました。

どのような弁護方針が適切かは事案によって異なりますが、精神的な疾患が事件の原因となっているような場合、その事件について不起訴処分を目指すことに加えて、根本的な原因となっている疾患の治療を行うことが必要です。

 

 

刑事責任能力のポイント

POINT①刑事責任能力はなぜ必要なのか

刑事罰を科すためには、責任能力が必要とされています。

ニュースなどで時々責任能力が問題となっている事件を目にして、「なぜ責任能力が無いと処罰されないのか、責任能力がなくても罪を犯したのであれば処罰すべきだ。」と考える方もいるでしょう。

罪を犯してしまった人に刑罰が科される理由は、法律というルールを守らなかったことが非難されるべきだからです。

しかしながら、ルールを理解して善悪の区別を出来たり、行動を制御出来たりすることが、ルールを守らなかったことを非難する際の大前提です。

そのような能力が無い人は、非難する前提がない以上、刑罰を科す意味も無いと考えられています。

小さい子供や認知症等で自分がどういう行為を行なっているか全く理解出来ていない状態の人に刑罰を科すことが果たして妥当か、と考えてもらえればおおよそのイメージは出来るかもしれません。

 

POINT②刑事責任能力の鑑定

起訴される前に、検察官が被疑者の刑事責任能力に疑問を持った場合、簡易鑑定という手続きや本鑑定という手続きが取られることがあります。

簡易鑑定は、1回の診察で医師が被疑者の精神状態についての意見を述べるものです。

1回の診察だけで判断を行うため、裁判で行われる鑑定と比べると精度が落ちる可能性はありますが、迅速に結果が得られるため、刑事責任能力が問題となり得る事件のうち、多くは簡易鑑定を行なっているように思えます。

他方、本鑑定の場合は2か月ほどの鑑定留置期間を設けて、その間、刑事責任能力の有無についてしっかりと医師が判断を行うことになります。

起訴前の鑑定で刑事責任能力が無いと判断された場合、裁判でも同様の判断がなされる可能性があると検察官が考えれば、不起訴となることもあります。

裁判で刑事責任能力を争う場合は、起訴前の本鑑定のように、ある程度の時間をかけて、医師による判断が行われます。

刑事責任能力を争う事件が公判前整理手続に付されていることも多く、公判整理手続の時間を使って鑑定が行われるケースも多くあります。

 

POINT③刑事責任能力がなく無罪となったその後はどうなる?

刑事責任能力が無いと判断され、刑事罰を受けることがなくなった後、全ての人がそのまま元の生活に戻れるというわけではありません。

重大な加害行為を行ってしまったものに対しては、心神喪失等の状態で重大な加害行為を行なった者の医療及び観察等に関する法律(心神喪失者等医療観察法)に基づいて、治療や観察、指導などが行われることがあります。

検察官が地方裁判所に申し立てを行い、鑑定のために入院した後、審判によってこれらの措置を受けるかどうかが決まります。

刑事責任能力が無いとして刑事罰を免れたとしても、重大な加害行為を行なってしまった人はそのまま放置されるわけではないのです。

 

 

まとめ

以上のとおり、刑事責任能力が無い場合にも、適切な措置が取られることがあり、刑事責任を免れるためだけに刑事責任能力を争うことはお勧めできません。

刑事罰も心神喪失者等医療観察法による措置も、被告人が社会内において生活するために必要なものという点で共通しているように思います。

より適切な方向に進めるよう、ご家族等が刑事責任能力に疑いがある状態で事件を起こしてしまった場合は、刑事事件に詳しい弁護士に相談しましょう。

 

 



なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか

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